ご来訪、歓迎いたします。本研究室は、制度的には京都大学大学院教育学研究科教育科学専攻教育社会学講座に所属しています。同講座は教育文化学コースと比較教育政策学コースで構成されており、メディア文化論研究室は教育文化学コースに属します。
大学で私が担当する講義名称は「メディア文化学」ですが、研究室の名称として「メディア文化論」を名乗る理由について、まず説明したいと思います。「メディア文化学(旧・メディア文化論)」の講義は、大学院重点化以前には「広報学」として開設されていたもので、その起源は帝国大学から改組された新制京都大学における教育学部設置(1949年)の目的にさかのぼります。
広報学とはPR(public relations)研究であり、public opinion(公的意見=輿論)を生み出す関係性の構築に寄与する学問を意味します。公論形成を担う人材育成が教育学の重要な使命だとすれば、マス・メディアや情報文化の研究は教育学に不可欠な要素だと言えるでしょう。また、マス・コミュニケーションの効果は「学校」教育を超えて、「生涯」にわたる人間の学習活動に及ぶため、教育社会学講座教育文化コースに位置しています。
研究室として「メディア文化学」と名乗らず、敢えて「メディア文化論」と名乗っている理由は、多様な研究アプローチを容認しているためです。私個人は歴史家であり「メディア論とはメディア史である」と考えていますので、学問的方法として歴史学のアプローチを重視します。学問の必要条件は「固有の対象」と「固有の方法」ですが、本研究室では特に後者(方法論)に固執するつもりはありません。つまり、固有の対象もメディア現象全般におよびますが、方法論は歴史学を中心に社会学、政治学、社会心理学など隣接領域から幅広く取り入れてゆきたいと考えています。そのため、院生には本研究科の教員だけでなく、各領域の優れた研究者から直接指導を受けることを積極的に勧めています。
さらに本研究室の特徴を一つ挙げるとすれば、演習を中心とした少数精鋭主義です。博士課程3年の終了時に、課程博士の学位を出すことが前提です。そのため、論文を書かない(書けない)院生の存在は認めておりません。修士論文執筆後は、「査読雑誌1本以上を含む2本以上の論文」が毎年のノルマです。本HPに掲載されている院生の業績は、その達成を示すものです。
なお、京都大学における私のミッションとして自らに課してきたことは、メディア研究の博士を10名出すことでした。2021年3月現在、8名の博士を輩出しました。
2010 赤上裕幸「日本映画教育史における『次に来るメディア』の知識社会学的研究」
2011 長崎励朗「労音運動おける教養とキッチュの文化社会学」
2014 白戸健一郎「満洲電信電話株式会社のメディア的研究」
2014 松永智子「近代日本における英字新聞のメディア論的研究―ジャパン・タイムスを中心に」
2017 トパチョール・ハサン「戦後日本における近代化「記憶」と「場」の揺らぎ―メディア・イベント「明治百年祭」(一九六八)を例に」
2019 木下浩一「商業教育局における社会教育と教養の系譜」
2020 松尾理也「「関西ジャーナリズム」の歴史社会学―『大阪時事新報』を中心に」
2020 趙相宇「植民地支配をめぐる記念日報道」
以上です。
(文責)佐藤卓己